Then & Now / Nik Kershaw

POPS

ニック・カーショウの2005年リリースのベスト盤。

ニック・カーショウについては、昔から愛聴している割にはまだ書いていなかったので、書いてみる。

音楽で分類すると、ロック・アーティストになるのだが、稀有な存在だ。
ロックが好きという人が、真っ先に挙げるアーティストではない。

一方で、かのエルトン・ジョンが、「10年に一度の天才」と評している。

息の長いアーティスト、ニック・カーショウ

80年代の全盛期の業績としては、2ndアルバム”The Riddle”辺りまでが、良く知られているところだと思う。
この頃、連続7曲を全英チャートのトップ20に送り込んでいる。

さらに4thアルバム”The Works”までが、シンセの使用が目立つ80年代サウンドの時期として位置づけられるだろう(1989年リリース)。

1991年にイギリスのアイドル的シンガー・ソングライターであるチェズニー・ホークスに、”The One And Only”を書き、これが全英で5週連続No.1となり、マイケル・J・フォックス主演の映画『ドク・ハリウッド』の主題歌に起用され、世界中で大ヒットしている。

この頃は、他のアーティストへの楽曲提供や、プロデュースで活動し、表には出ていないらしい。

そういった時期を経て、5thアルバム”15 Minutes”(1999年)をリリース、4thから10年開いているが、そこから後は、オリジナルフルアルバムは3年~6年の間隔で出し続けている。
2016年1月現在での最新アルバムに当たる”Ei8ht”は、2012年に発表されている。
他にベスト盤も出ている。

ただ、”15 Minutes”が日本で紹介されたのを除いては、オリジナルアルバムもベスト版も日本版がないものが多いようで、情報を追いにくかった。

何度か音楽業界に嫌気が差して引退しただのという情報が流れて来ているが、何だかんだ言ってちゃんと音楽は作っているのだ。
全く人騒がせな。アーティスト気質で、意外と気が短いとかか。

ベスト盤としての特徴

デビューから2005年までにリリースされた中から選曲されたナンバーに加え、新録は3曲とのことだ。

90年代以降の曲は、全体にギター中心のバンドサウンドで、どこかねじれている、という作りの曲風に(80年代のそれから)移行しているため、じっくりと聴かないと良さが分からない。

今後何度も聴き返すことになるだろう。
その分、多少楽しみが残されていると言える。

個人的には、エルトン・ジョンと組んで出した”Old Friend”、Les Rhythm Digitalesと組んで出した”Sometimes”が収録されているのが目玉だと思っている。

ニックの曲がマジカルである秘密

話は脇道に逸れるが、このアルバムの収録曲に限らず、ニック・カーショウらしさは、上に述べたような、楽曲の「ねじれ加減」にある。

歪んだギターの音が入っていると言っても、ただのロックとは一線を画している。

心に染み入るメロディーで評価されることも多いようだが、私がすごいと思うのは、サウンド面でも、メロディーや和声の面でも、ロックではあまりやらないようなことをやっているところだ。
<サウンド>
80年代 - ペタッと張り付いたようなシンセ音
90年代以降 - 一口では言えないが、フランジング(音をうねらせる効果)の使用など
<曲作り>
●意表を衝いた転調
●変拍子の使用
●和声やメロディーのパターンを少しずつずらして進行させ、聴いていて頭がぐるぐる回るような効果
●歴時(音符の長さ)の長いメロディーによる、粘るような効果
など

90年代以降の楽曲では、特徴を抑えめにしている。
そのため、優しい曲調で落ち着く、という感じで評する人もいるが、なかなかどうして、アーティスティックだ。

マジカル+デジタルな収録曲”Sometimes”

話は標題の版に戻るが、収録曲”Sometimes”は、マジカルなデジタルサウンドが私のつぼにはまる。

ラジオで流れているのを聴いたことがあるが、曲の途中からだったので、買ってようやくきちんと聴けた。
ラジオで偶然この曲を聴いたときは、ニック・カーショウが消えていないことを知って、安堵したものだが、都度情報を追えていなかった。

パーソナリティーがニックと組んだアーティストの名前を一回しか言わなかったので、覚えられなかったというのもある。
曲はいつか手に入れたいと思っていたのだが、ようやくお目見えした。

Les Rhythm Digitalesはフランスのデジタルサウンド系グループだろうか。
検索してもあまり情報がない。

この曲はLes Rhythm Digitalesの1999年発売のアルバム”Darkdancer”に収録されていて、シングルとしても出ている、というところまでは分かったが。
同アルバムの他の曲は、やはりテクノ寄りデジタルサウンド系クラブミュージックの感じで、曲が今ひとつ引き締まっていない。

この手のユニット(一人のクリエイターが名乗っている場合も多い)は、現れては消えて行く(または地味にずうっと活動し続けている)ので、リアルタイムで追っていないと、詳細が分からない。
テクノ系が好きな人は詳しいだろう。

“Sometimes”ではニックとの出会いによって、引き締まった曲の構成、特徴的な和声、Les Rhythm Digitalesのテクノサウンドがうまい具合に融合して、奇跡が起こっている。

Scritti PolittiのGreen GartsideとB.E.F.によるStivie Wonderのカバー”I don’t know why I love you (but I love you)”と同じ様な協力態勢で、良い感じだ。
曲の在り方としても、同作品と通ずるものがある。

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