ミクロコスモス / バルトーク

Classical Music

ハンガリーの20世紀を代表する作曲家バルトークが、自分の子供のピアノの練習のために書いた作品。

楽譜としては全6巻に収められている。
第1番から第153番まであり、ピアノの小品集というより、ごく短い曲の集合体と言った方が正しい。
楽器はピアノのみだが、一部、歌曲が含まれる。

第3巻辺りまでは、曲というよりは、曲の素材と言った方が当たっている。
第4巻以降に収録されている作品群の方が、多少曲らしくなっている。

線を中心とした構築技法

旋律に和声は付いているが、響きを構成する最小限の音で成り立っている。
同時に鳴る音が2音とか3音とかで、3音の場合でも機械的に平行移動したりするので、伝統的な機能的な和声には聞こえない。

機能的な和声というのは、例えばポップスでハ長調でC-F-G-Cのコードを鳴らすと、次にこうなる、という流れができ、Cが来る箇所で区切られるので、歌も乗せやすいが、そういう和声のことだ。
機能の名前で言うと、この例では、Cがトニック、Fがサブドミナント、Gがドミナントとなる。
大体、歌詞の内容からして感情が高まる部分に、サブドミナントとドミナントが当たる。落ち着くところにはトニックが当たる。

C,F,Gはそれぞれ3音から成るが、同じ3音でも、全体が塊となって平行して上がったり下がったりすると、どこからでも始められるし、どこでも終えられる。こうなると、曲の調が何調なのか曖昧になるし、意味を成さなくなる。

もっとも、調性は意識されていて、ある調の構成音を意識して音が散りばめられている。
特に、曲の最後が突然主音の連打で終わるパターンが多く見受けられ、「ここで辻褄を合わせました」と言わんばかりだ。

そういう意味でも、こういう曲の作り方では、素材は和音として鳴ってはいるが、線と言った方がしっくり来る。

メロディーではなく、音型や音の高さの対比、倍音の構成(低い音の響きを、高い音を加える事で補っているということ)、時間軸に沿った横の流れの構成で曲を成立させているのだが、現代音楽はこの辺から始まっていると思われる。

単純に対位法的という言い方もできるが、バッハ以前からの対位法楽曲の流れからは少し逸れている感じもする。
リズムと音階に、恐らくはルーマニアの土着の民族音楽からの影響がある。
直接それらの音楽からメロディーを写しとっているのではなく、余りにも強く感銘を受けたので影響が出ている、という感じだ。
バルトークらしいとしか言いようがない。

バルトークの名手コチシュによる演奏がある

私が所有している版がアマゾンにもあったので、ジャケット写真を載せてみた。

この版は、ピアノはバルトークの名手ゾルタン・コチシュによる演奏なので(ピアノではもう一人クレジットされているが、ピアノが2台必要な曲で呼んでいるだけ)、曲の意図をちゃんと汲みとっていて、聴いていて曲の本質を理解しやすい。

余計な感情を一切入れ込まず、素材を面白く聴かせることに重点を置いている。

コチシュの特徴なのか、歴時(音符の長さ)をランダムに切り詰めたりして、単調さを防いでいる。
解釈としてはユニークだが、逆に、曲の骨格は浮き出てくる。

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