Citizen Soul / People In The Box
POPS
People In The Boxは、音としては90年代以降の3ピースバンド(ギター、ベース、ドラムで3ピース、と数える。ヴォーカルは楽器ではないので勘定しない。)のロックに当たる。
表題作は2012年発表だ。
90年代以降のロックは「ポスト・ロック」と称されることもあるようだ。
同年代では、世界的に録音機材がデジタル技術で総入れ替えされてから、音がソリッドに薄くなっていて、サウンド面からも音楽に変化をもたらしている。
デジタル録音は、一見軽快に見える鋭い歌詞と相性が良い。
アルバムの中の『ニコラとテスラ』をチャット・モンチーのヴォーカル・ギターの橋本絵莉子がラジオでかけていたのを聴いて、このバンドの存在を知った。
歌詞に注目
ちょっと存在そのものが信じられないような音世界だ。
聴かないとどういう感じか、伝わらないたぐいの代物だ。
歌詞が想像力を刺激するような書き方をされている。歌詞でしかできないことをやっているのだ。
言葉の響きを重視しているので、歌詞を意味で追って行こうとすると分かりづらいことになる。
理屈抜きにただ全体的に聴いて楽しむ。
ゴダールやレオス・カラックスの映画のように楽しむ。
世の中の多くの楽曲は、詞と曲だと、曲の方を先に用意して、詞はそれにあてはめるように作られる。
People In The Boxの場合、詞が先だと思われる。
前述のチャット・モンチーの曲も詞が先だ。橋本絵莉子自身がそう言っているので、間違いない。そいういう曲作りを勧めてもいるくらいだ。
詞を先に作って、基本的な3コード(ハ長調なら、C、F、G)を使えば良い、と子供に教えたら、曲ができる、と言っている。
それはさておき、People In The Boxのナンバーでは、一曲の中で曲の拍子ががくがく変わるので、詞にメロディーを当てはめているのだと想像できる。
収録曲『ニコラとテスラ』
この二人の人物名には、何かの文献からとっているかのような響きがあるが、創作ではないだろうか。
曲の構成が物凄く変わっている。
始めの方で、音をバツっと切って(録音された音源でしかできない。ライブではこの通りとまでは行かないだろう。)、継ぎはぎしたような効果を出している箇所がある。
ゴダールの映画で、そういう編集があったが(一見、編集を間違ったのではないか、と錯覚させるような感じに、わざと作っている)、それを思い出させる。そちらは音楽ではなく、映像の話だが。
曲の中盤から、流れるような調子になっていて、カタルシスが訪れたかと思って胸をなで下ろすのも束の間、最後はまた期待を裏切って中断するようにして終わる。
聴いている方は、「…………。」となってしまう。